日刀保にっとうほたたらに火が入るのは、寒さが最も厳しくなる毎年1月中旬から。
 3昼夜通しの操業は炎の格闘でありながら、従事する人々を支えるのは誠意と真心だと村下はいいます。火をよみ、風をよみ、砂鉄の煮える音をよむ。命なきものと人間の対話の果てに「けら」が誕生し、すべては金屋子かなやごさんのおかげと手を合わせます。
 誠実さあってこその美しいはがね
 日刀保たたらは技術の継承とともにものづくりの精神を現代に伝えています。

 律令制のもと、それぞれの国の歴史や事物を記し天皇に献上した地誌を、「風土記ふどき」といいます。
 和銅6(713)年5月、元明げんめい天皇は国ごとの郡郷の地名伝承、山川原野、草木禽獣、産物、地味、古老の伝承、交通などをまとめた書籍を編纂するよう命じました。出雲国いずものくににおいては20年をかけて調査、執筆が行われ、天平5(733)年、今からおよそ1300年前に出雲国風土記いずものくにふどきが完成。今に伝わる常陸ひたち播磨はりま豊後ぶんご肥前ひぜん、出雲の各国の5冊の風土記の中でも、出雲国風土記は最も完本に近いといわれています。
 出雲国風土記では、最初に出雲国の全体像が書かれ、続いて意宇おう・島根・秋鹿あいか楯縫たてぬい・出雲・神門かんど飯石いいし仁多にた・大原のこおりごとにその土地の地名伝承、社寺、山川、動植物、交通、軍事施設などが記されています。また、『国引き神話』など、古事記や日本書紀には書かれていない出雲神話も記載されています。

 出雲地方の、往時の姿を想起させる象徴的な景観や文化――いうなれば「原風景」は、実はたたら製鉄に由来するものも多いのです。そのいくつかを紹介します。