全国にその名を馳せた奥出雲の鉄。しかしながら、その特性や性能についてはほんど知られておらず、発表されたデータも多くありません。
包丁鉄としての出雲鉄
吉田町「鉄の歴史博物館」所蔵の割鉄・包丁鉄と、約400年前の国内外の鉄とを比較した調査の例をご紹介します。
この調査では、鉄の結晶粒内に含まれる鉱滓(不純物)の介在に違いが確認されました。例えば、出雲鉄同様古くから打刃物に使われてきた瀬戸内の「三原鉄」は結晶粒内にほとんど鉱滓が残留していないのに対して、「出雲鉄」は結晶粒内に比較的多く含まれていることが確認されています。現在では、鍛練によって微細化・分散化した不純物は鉄の靭性(粘り)や展延性(打ち延ばしやすさ)を高めていることが知られていますが、鍛冶職人は、三原鉄に対して「脆さ」を、出雲鉄ついては「粘さ(粘り強さ)」を指摘しており、手と槌を通してそれぞれの「鉄の味」(鉄からの情報)を正確に把握していたようです。
部位によって使い分けられた火縄銃
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また、近世の鉄砲産地であった滋賀県長浜市国友町では「出雲の鉄は最良」と伝えています。実際に火縄銃で出雲鉄がどう使われていたのかを調べると、戦国時代の銃身では、尾栓の雌ねじ(銃身側)の素材として「三原鉄」を熱間鍛造して用いる一方、雄ねじ側には「出雲鉄」が多く使われていることがわかりました。
当時の鉄砲職人は、それまで日本になかった「ねじ」という構造に対応すべく、それぞれの鉄の素材特性と加工特性(特に火造り時の槌当りの軟らかさと変形の度合い)を見分け、実践していたことがうかがえます。
このように、鉄に求められる性状は用途によって異なることから一概に優劣を付けるものではありませんが、奥出雲の和鉄の独特の性質は、これを生かすことのできる職人たちによって高い評価を得ていたことは間違いないようです。