「たたら」の種類

「たたら製鉄」の2つの方式――「ずく押し法」と「(けら)押し法」

 「たたら製鉄」は、大きく2つの方式によって行なわれました。
 銑鉄せんてつをつくることを目的としたずく押し法(4日押し法)」と、鋼をつくることも可能なけら押し法(3日押し法)」です。

銑押し法(4日押し法)――間接製鉄法

  •  原料砂鉄から銑鉄=「ずく」を得ることを目的とした製鉄法を「銑押し法」といいます。銑鉄は、炭素の含有率が高く融点が比較的低いため鋳物にも用いられましたが、道具に成形することが可能な鉄とするためにはさらに処理を施さなければなりません。

     たたらで得られた銑の大部分は大鍛冶場おおかじばで炭素を下げて軟らかい鉄に加工されました。大鍛冶場での作業は、銑や歩鉧ぶけらを脱炭して、割鉄わりてつまたは包丁鉄ほうちょうてつと呼ばれる板状になった鉄にするものです。


  • 大鍛冶場での作業の様子[鉄の歴史博物館 蔵]

鉧押し法(3日押し法)――直接製鋼法的製鉄法

 たたら操業により製鉄炉の中にできる塊はけらと呼ばれます。鉧押し法による鉧の中には鋼ができました。鋼は叩いたり伸ばしたりして鍛えることができる上、焼きを入れて硬くすることができるので、日本刀をはじめ、刃物、工具などに用いられてきました。鉧押し法では、鋼のみができるわけではありませんが、精錬工程を経ることなく鋼ができる点では直接製鋼法的な製鉄法ということができます。

 鉧押し法は、銑押し法と同様1回の操業に4昼夜を要しましたが、後の技術改良により3昼夜に短縮されました(3日押し法)。

原料砂鉄の違い――「赤目あこめ砂鉄」と「真砂まさ砂鉄」

 これら2つの異なる方式のたたら製鉄では、それぞれ用いる砂鉄も異なります。砂鉄は、二酸化チタンの含有量により、赤目あこめ砂鉄」真砂まさ砂鉄」に大別されます。
 このうち赤目砂鉄は、真砂砂鉄に比べて二酸化チタンの含有量が多く、広範囲に産出することから、銑押し法の原料として各地で多用されました。
 一方、真砂砂鉄は二酸化チタンが少ない原料ですが、山陰側の一部に産出地が限られています。鉧押し法にはこの真砂砂鉄が不可欠で、これを産出する出雲地方(現在の島根県東部)で鉧押し法が発達する一因となりました。


    • 真砂まさ砂鉄

    • 赤目あこめ砂鉄

銑押し法(4日押し法)・鉧押し法の比較

分類 ずく押し法(4日押し法) けら押し法(3日押し法)
稼働地域 東北~九州、中国山地南側など 主に出雲地方(現在の島根県東部)と伯耆(鳥取県西部)
工程による分類 間接製鋼(製鉄)法
(銑鉄を作り、大鍛冶場で割鉄に加工)
直接製鋼法的製鉄法
(鋼を含んだ鉧ができる。銑・歩鉧は大鍛冶場で割鉄に加工)
操業1回あたりの日数 4昼夜 4昼夜(後の技術改良により3昼夜)
鉄原料 赤目あこめ砂鉄 真砂まさ砂鉄
歩留まり 砂鉄16.5t・木炭17tから銑鉄4.8t程度 砂鉄13t、木炭13.5tから鋼1.13t、鉧1t、銑1.6t程度
分類 ずく押し法(4日押し法) けら押し法(3日押し法)
稼働地域 東北~九州、中国山地南側など 主に出雲地方(現在の島根県東部)と伯耆(鳥取県西部)
工程による分類 間接製鋼(製鉄)法
(銑鉄を作り、大鍛冶場で割鉄に加工)
直接製鋼法的製鉄法
(鋼を含んだ鉧ができる。銑・歩鉧は大鍛冶場で割鉄に加工)
操業1回あたりの日数 4昼夜 4昼夜(後の技術改良により3昼夜)
鉄原料 赤目あこめ砂鉄 真砂まさ砂鉄
歩留まり 砂鉄16.5t・木炭17tから銑鉄4.8t程度 砂鉄13t、木炭13.5tから鋼1.13t、鉧1t、銑1.6t程度

「たたら」が生み出す鉄の分類

銑鉄(銑)――鋳物鉄と包丁鉄

 炉の中で砂鉄が還元された鉄のうち、炭素を多く含むものが「銑」です。銑は脆いため叩くと割れるため、このままでは鍛えることはできません。一方で、溶けやすく流動性が高いことから型に流し込んで鍋や釜などの鋳物を作るのに適しており、鋳物鉄いものてつと呼ばれます。
 ただし、たたら吹きで多量に生産される銑のうち鋳物材料になるのは一部で、多くは大鍛冶場で鉧から鋼を取った残りの歩鉧ぶけらとともに加熱され、脱炭・鍛錬を重ねて割鉄わりてつとなります。割鉄は包丁鉄ともいい、普通の鉄素材として、工具、農具など様々な道具が作られました。割鉄の値段は鋼よりも高く、出荷高の大部分を占めていました。

粗鋼――鉧、玉鋼たまはがね

 操業終了後に炉底に残った粗鋼の塊が「鉧」です。
 炉から取り出し冷却された鉧は、どうと呼ばれる施設で粉砕され、品質により玉鋼たまはがね目白めじろつく、歩鉧などに分別されました。中でも良質の玉鋼は、日本刀をはじめとする刃物に用いられました。

 玉鋼は1~1.5%程度の炭素を含む高純度の鋼で、刃物に最適な物性を持っている上、わずかに含まれる不純物が折り返し鍛練によって微細化・分散化することで、刃物鋼に求められる粘り強さ、研ぎ性といった性質をかえって向上させているようです。
 玉鋼、特に最上級のものは日本刀の作刀に不可欠であり、今日では島根県奥出雲町の日刀保にっとうほたたらが唯一これを生産し、全国の刀匠に供給しています。

>日本刀についてより詳しく。スペシャルコンテンツはこちら