「たたら」のしくみ

 「たたら操業」による鉄づくりにおける、操業開始から終了までの1操業を一代ひとよと呼びます。けら押し法は一代を3昼夜で行なうことから「3日押し法」といわれます。鉧押し法における一代の工程の概要は次のとおりです。

  • 1日目 こもり 操業開始:火入れと炉の乾燥。砂鉄の装入開始。
    こもりつぎ 鉧のはじまり:安定操業に入る時期。
    2日目 のぼり 鉧の成長:砂鉄と木炭の装入量をともに多くする。
    3日目 くだり 砂鉄の装入を続け、送る風の量を多くする。
    おおくだり 炉体が浸食され炎が噴き出すほどになる。
    砂鉄の装入を完了する。
    4日目 釜出し 送風を停止し炉体を壊して鉧を取り出す。
    冷却 鉧を鉄池かないけに投入。急激に冷却し水鋼みずはがねをつくる。

日刀保にっとうほたたら」の実際のたたら操業

たたらの炉と地下構造

  •  たたらの炉は、初期には直径50cm程度とごく小規模であったものが、送風設備や地下施設の改良により近世には長さ250~300×幅70~90×高さ110cmほどにまで大型化しました。炉は、砂鉄を木炭の燃焼により熔融するための器であるとともに、炉壁の粘土が触媒となることで、砂鉄に含まれる不純物を「ノロ(鉄滓てっさいの融解物)」として排出する役割も果たしていました。

     そのため、この釜をつくる粘土の良し悪しは操業に極めて大きな影響を及ぼします。たたら操業に従事する人々の間には「一釜、二風、三村下むらげという言い伝えがあります。操業を成功させる秘訣の第一は「よい粘土を使った釜(製鉄炉)づくり」、第二に「製鉄炉に送る風の調整」、そして第三に「村下(たたら操業の総監督)」というわけです。操業中に高温にさらされ続け、浸食される炉は、一回の操業(一代)を終えると取り壊されます。

  • 炉[菅谷たたら山内]

地下構造

 大型の製鉄炉で安定して高温操業を行うためには、防湿・保温を強化する必要がありました。そのため炉は床釣とこつりと呼ばれる地下の構造物を伴っていくこととなります。

 床釣の底には砕石・砂利・真砂土を順に敷き詰めた上に粘土の層を作ることで、断熱とともに地面からの湿気を遮断しています。この粒度の異なる石・砂の層構造により、地下からの湿気・湧水を最下層に設けた排水溝に流すとともに、炉が水分の影響を受けない構造を実現しています。
 炉床(炉を設置する場所)は木炭・灰を突き固めて作られ、本床ほんどこと呼ばれます。本床は、下の粘土層とともに、炉への湿気を完全に遮断する役割を担っています。
 また、本床の両側には小舟こぶねと呼ばれる空間が設けられています。小舟は、熱伝導率の低い空気の層による断熱(炉の保温)効果を得るとともに本床の湿気を逃がす役割を担っています。
 床釣は、近世には深さが3mにも及ぶ大規模なものとなり、一代ごとに築かれ壊される炉に対して、床釣は定期的な補修作業を施しながら繰り返し使われました。

 経験をたよりにこのような複雑、かつ理にかなった地下構造をあみ出していた先人の智慧は驚くべきものです。

  • 1 本床と小舟をつくる
  • 2 本床の甲(天井)を叩きしめる
  • 3 炉床をつくる
  • 4 炉を築く

たたら操業の正否の鍵を握る「村下(むらげ)

  •  たたら製鉄を取り仕切る技術責任者を村下むらげといいます。

     「村下」は、たたら操業を取り仕切る技術者のことで、炉に使う土の選定から築炉、製鉄工程においてはふいごで送り込む風の量、砂鉄や木炭を入れる量とタイミング、操業終了の見極めとあらゆる工程を統率・指示する役割を担います。たたら操業は、この「村下」の長年の経験と勘に委ねられていました。

     村下は炎の色や音、ノロ(鉄滓)の出方などをもとに操業の判断を行なっていました。操業初期の「こもり」期には「朝日の昇る色」、鉧が成長を始める「のぼり」期には「太陽の日中の色」、終盤の「くだり」期には「日が西山に没する色」といった具合に、その秘法は代々受け継がれてきたといい、長年にわたって灼熱の炎に灼かれ続けた村下の目は視力を失うこともしばしばであったといわれています。

  • 現代の村下 木原明氏