ヤマタノオロチ退治の神話で知られるスサノオノミコトは、最も勇猛果敢な神として不動の人気をもつ英雄神です。
スサノオノミコトの表記は、古事記では建速須佐之男命、速須佐之男命、須佐之男命、日本書記では素盞嗚尊、神素盞嗚尊、建速素盞嗚尊等々、出雲国風土記では神須佐之袁命、神須佐乎命、須佐能袁命などさまざまですが、古事記、日本書記(以下、「記紀」)はスサノオノミコトを皇室祖先神・アマテラスオオミカミの弟で神速勇猛な荒ぶる神と描き、出雲国風土記は須佐の地に御魂を止めた穏やかで平和な須佐の長としてその姿を記し、天孫系の神との血縁関係には全く触れていません。
ヤマタノオロチ説話は記紀に書かれているもので、不思議なことに出雲国風土記にはその片鱗すらありません。
『街道をゆく』は、昭和46年(1971)から「週刊朝日」に連載された、司馬遼太郎による紀行文集です。平成8年(1996)に著者の急逝により絶筆となるまでの全43巻にわたって、著者が国内外の街道・みちをたどって目にしたその地の歴史・文化などについて書かれています。
昭和50年(1975)1月6日から8日にかけて、司馬氏が日本に古くからある製鉄法・たたら製鉄ゆかりの地を求めて出雲(現在の島根県東部)から吉備(現在の岡山県から広島県東部)までを旅した際の紀行文は、『街道をゆく』に「砂鉄のみち」として収録されています。
作家有吉佐和子の小説『出雲の阿国』は、「たたら」をモチーフに歌舞伎の始祖と伝わる出雲の阿国の一生を追ったフィクション作品です。
作者は、主人公である女性「お国」は「どうしても出雲から出たものでなければならず、しかもたたらの血筋の者でなければならなかった」(「神話の生きている国」『世界』昭和42年4月)としています。
「お国の身の内には火が燃えちょうけん気をつけろ」と諭された少女・お国は、念仏踊りの一座に同行して京に上り、火のようなその踊りはやがて「天下一」と称されるようになります。
宮崎駿監督のアニメ『もののけ姫』には「たたら場」が、物語のカギを握る重要な場所として登場します。主人公アシタカは、たたり神の呪いを解こうと旅をする中、たたら場でエボシ御前と出会い、呪いの正体を知り、やがて人間ともののけの戦いに巻き込まれていきます。
この、『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルは、島根県雲南市吉田町にある「菅谷たたら」であると言われています。
『もののけ姫』には、たたら製鉄やたたら製鉄に従事する人たちの暮らしに触れたセリフも出てきます。菅谷たたらにおけるたたら製鉄からこれらのセリフを読み解き、『もののけ姫』をちょっと違った角度から味わってみませんか。