作家有吉佐和子の小説『出雲の阿国』は、「たたら」をモチーフに歌舞伎の始祖と伝わる出雲の阿国の一生を追ったフィクション作品です。
作者は執筆にあたり10余年をかけて綿密な調査を行っていますが、その間に自分の中に育ってしまったという1人の女性「お国」は、「どうしても出雲から出たものでなければならず、しかもたたらの血筋の者でなければならなかった」(「神話の生きている国」『世界』昭和42年4月)と父を鉄穴師、母を村下の娘と設定します。
2人はたたら場から駆け落ちをして出雲杵築(現在の出雲市大社町)へ逃げ込み、間もなく斐伊川の洪水で落命したことから、お国は出雲杵築の鍛冶屋に引き取られた――とお国の生い立ちを展開させていきます。
こうした背景から両親の顔を知らずに育ちますが、里親から繰り返し聞かされる「たたらの話」や「父母の駆け落ち話」に心ときめかせ、「お国の身の内には火が燃えちょうけん気をつけろ」と諭されるうちに、身の内に流れる血やたたらの火に強い憧れを抱いた娘に成長し、念仏踊りの一座に同行して京に向かいます。